のすたるじっく 桜子 From Hakodate

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ご挨拶

桜子のブログへようこそいらっしゃいました

さて、このブログは2011年に完結したもので

その後、広告が入ると見ずらいので

内容は変えずに日付のみ更新し続けていました

しかし、それもたまに忘れるので広告が入ってしまい

アレ? 桜子さんはどうしているのかな? 

な~んて思ってくれる人がいるかどうかはわからないけれど

桜子は元気にしているのでどうぞご心配なさらずに!
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  1. 2016/10/04(火) 08:57:09|
  2. 雑談
  3. | コメント:0

街角散策あるいは街企画DVD

DVD

完売!

テーマ:フォトストーリー - ジャンル:写真

  1. 2011/11/30(水) 09:11:09|
  2. 写真展・凾館街角商會
  3. | コメント:0

凾館から来た女

凾館から来た女

続きは・・・

テーマ:フォトストーリー - ジャンル:写真

  1. 2011/11/16(水) 10:05:38|
  2. 函館物語
  3. | コメント:0

君がいた街 ~ Hakodate~

君がいた街

里子さんと村上がいた(函館喫茶物語)
繭子がいた(函館物語)
そして、あなたも・・・Hakodate ブラボ~
Hakodate ストック Photo 終了

テーマ:フォトストーリー - ジャンル:写真

  1. 2011/11/15(火) 23:40:49|
  2. 風景 Photo
  3. | コメント:2

函館物語 

この「函館物語」は、テディと桜子という 世代を超えた (強調!笑)二人が
2011.9 にそれぞれのブログで発表していたものをまとめたものです
(赤文字が桜子 白文字はテディ→日活アクションばり・爆) 

テディのブログ 「函館幻想散歩」 にも書いていますが

「現実と小説とが交錯し、ふたりのブログもそれぞれの視点から
同じ物語が別のシーンで描かれ進行すると言う…
なんとも独特の面白い展開をする事になったのです」

    さぁ、どうぞごゆっくりお読み下さい
        
             
     函館物語

繭子が死んだという知らせを、俺はサンパウロで受け取った。
四月といってもひどく肌寒い函館湾に浮いていたと言う。
俺は二等航海士として乗り組んでいる貨物船が函館で修理と艤装変換をやる間休暇をとった。
三ヶ月や四ヶ月で方がつくのかどうか、それは判らなかった。
六月には海霧が海峡の港街にもののけのように押し寄せて、街を包み込む。
霧笛がこだましていた。
介護施設にいる繭子の父親を訪ねたが、くどくどと昔話を繰り返し、
繭子が死んだ事を自分のせいででもあるかのように俺に詫びるばかりで、
何んの手掛かりにもならなかった。

とくに最初の当てがなにかあった訳じゃない。
わずかに頼りない噂を拾い集めるように街を歩き回ってみた。

繭子が時折唄っていたと言う酒場へ向かったのは上陸して四日目の夜だった。
湾岸近くの煉瓦倉庫の路地にあるその酒場・錨とパイプ亭はタバコの紫煙と、妙に重たい雰囲気が充満していた。
酒場のマスターも「気まぐれに歌いに来てただけで、本人の事はほとんど知らない」と
いやに素っ気ない返事だけ
で、ひとりの女が湾内に浮いて死んでいたと言う事件の割に好奇心すら示さなかった。

カウンターでバーボンを飲んだ。ふいに低い声で隣の女が俺に話かけてきた。
「繭子の事を探らない方がいいよ。できたら街を出た方がいい…。一度だけのおせっかい…。無駄にしないでね」
女はそう言うと、俺にちよっとだけ一瞥をくれてカメラバッグらしいものをゆすりあげて出て行った。
何故か後を追う気にはなれなかった。また近いうちに会うような気がしたからだ。

空いた隣のスツールに男が座った。
革のハンチング。妙に頬の膨らんだ、目元がニヤニヤ笑いを浮かべたようなヤツだ、
チェシュアキャット…確かアリスの不思議な国に登場する猫だ。
笑いだけが宙に浮いている…そんな感じがする猫だった。
この男もどうやら俺に親切な忠告をしたいらしい。

「俺はコルトのジョー…ま、そんなふたつ名前の家業さ。
で、そりゃ…世の中ってやつはいつだつて不条理なものだ。
知りたくても、探ってはいけない真実ってものもある。
健康で明日も生きていたければ、そのうちささやかな幸せってヤツのかけらくらい手に入れたければ、街を出な。
あんたの探し物は…何一つ出やしない」
「幸せ…ね。随分とやわなセリフだな。そんなものには縁がないってツラのヤツには似合わないぜ」
「いんゃぁ…ま、慣れない忠告なんてものをするのも、俺の主義に反するからな。
だが仕事の一貫ってやつで、一応伝えろと…そう言われたのさ。俺は意外に律儀なんだ」
「伝えろ…か。その伝言ゲームの好きなやつに会いたいもんだ」
「ひとこと言って、気を変える男じゃないよな。近頃雑用が多くていけねぇ」
コルトのジョーと名乗る男はオン・ザ・ロックを飲み干すと「じゃ、確かに伝えたぜ」
そう言ってやはり霧の深い酒場の外へと消えた。


探偵事務所

企画に行き詰まり
凾館街角商會事務所の近辺を
うろついていたら

渋いビルヂングを見つけた
海寄りの辺鄙なこんなところに
こんな古いホントに古~い年代物の
ビルヂングがあったなんて
知らなかった

中に入る
あっ・・・

ここだったんだ・・・

繭子が函館湾に浮かんでいたって
聞いて 「錨&パイプ亭」へかけつけた時
コルトのジョーって名乗る怪しげな
男が話していたビルヂング

探偵事務所と歌声喫茶が1Fにあると
言っていた


凾館街角商會の企画制作部長 桜子が見つけた古いビルヂング…こいつは曰く付きのビルだ。
探偵事務所がある。探偵は藤村泰三と言う。得体の知れない男には違いない。
ここに出入りする男たちのひとりがコルトのジョー、こと坂木錠。
いつもニヤニヤ笑いをはりつけたようなオカシな男だ。

歌声喫茶なんて今時、ほとんど聞かないものまで同居しているビルだ。
ここのママってのも普段は大昔の文化と民主生活の普及委員かよ…と言われるものごしだが、
その実ウラで何をやっているか判ったものじゃない。

繭子が死んだ件で警察を訪ね、基本的な調査結果を聞いた。
親族でもない俺に最初は何も話せないの一点張りだったが
外出から戻ったらしい中年の刑事が通りすがり、「俺が変わろう…」と言って俺の相手をしてくれた。

恋人だった時期がある…と言うと暫く俺を見つめた後で
「少し珈琲でも飲むかい」と外へと誘った。
艀(はしけ)と言う喫茶店に入った。

「繭子…さんだな。あのガイシャの一件は確かに疑えばきりがない。随分とやっかいな背後もありそうだ。
ただ、妙な具合に上から事故死として処理するように…とまぁ、上級職の調査で結論を出したからそうなった」
刑事の名前は浅部俊雄、やたらに煎りの深い珈琲が好みらしい。

「あんたと同じように探偵の藤村泰三と言う男も
現場や署内をうろついてなにか聞き出したいようだったな
まぁ、この街をウラから仕切ってる連中に関係がある。だから…うかつには手は出せない。
はっきり言えばあんたが掻き回してくれるとこっちは好都合だ。
これであんたの死体でも転がってくれるとさらに好都合だ。それで再捜査できるからな」
面白くもない事を言って掠れた声で笑った。

浅部は伝票を掴みながら
「繭子さんは何かを知った。知ったという事実をどこかに隠した、私はそう思っている。
ここだけの話…ウラの連中は密かに彼女の立ち回りを洗っているらしい。
そこへあんたが紛れこんで来た。な…ちょぃと物騒だろ」
「珈琲代は貸しだよ」そう言って刑事は署内へと戻って行った。

探偵の藤村…。とりあえず俺はそいつにあたってみるしかないようだ。
北浜地区・波止場町、探偵とやらの事務所はそこにある。
浅部刑事がくれたメモを頼りに俺はまた動き出した。

面白いビルヂングを見つけた、と思った
それに今時、歌声喫茶だなんて本当にあるんだ

しかし・・・
以前、所長が歌声喫茶にはまっているようなことを
チラっと聞いたことがある
ま、所長はその世代だしシャンソンやタンゴも好きらしいが
基本そっちなのかもしれない

もっともそこの女主人が目的だ、な~んて
あのコルトのジョー・・・確か坂木錠と言ったっけ・・・
が、ニヤニヤ笑いながら「艀」でチラチラ私を見ながら
マスターに教えていた
全く感じの悪い男だ

私は珈琲豆をきらしていることに気付いたので
「艀」へ行った

扉を開けるとママが「いらっしゃい」と迎えてくれた
今日はマスターではなくママだ

隅の席でなにやら読んでいるお客がひとりだけ

やたら深煎りの珈琲が好きな浅部さんだ
彼が刑事だってことを知っているのは
私くらいなものでしょ

かもめ

台風一過の青空が目にまぶしい

かもめが気持ちよさそうに
飛んでいる

かもめか・・・

繭子が死んだ4月初めのライブ
初めて「かもめ」を彼女は唄った

私は不思議だった
繭子はジャズ唄いだから
何で浅川マキ:「かもめ」なのかな、と

すごい情感だった
あの時涙ながらに「ブラボー、ブラボー」と
叫んでいた女が
「歌声喫茶」の女主人なのだそうだ

「錨とパイプ亭」のマスターは
「だから、あの曲を唄うのはヤめろと言ったのに」
と、訳のわからないことを言っていた


俺は久我草介。貨物船の二等航海士だ。
まだ十分に冷たい函館湾に事故による溺死で浮いていたという恋人・繭子のほんとうの死因をさぐり出そうと、
船がドック入りしたのを機会に3ヶ月の休暇をとった。

繭子の遺品の中にカメラがあった。繭子が撮影趣味とは聞いた事もなかった。
離れている間にそんな事も始めたのかと思った。
そういえば「一度だけのおせっかい。無駄にしないでね…」と囁いて海霧深い酒場の戸外に消えた女は
カメラバッグを肩にしていた。

俺は船員ホテルをねぐらにしていた。
青い色に塗られた三階建て、アメリカンタイプのやたらに古い建物だ。
上がり下りするたびに階段はひどく軋む。
1階には随分と重厚なカウンターがあり、無愛想なマダムがひとり、いつもトランプ占いをしている。
かなりの高齢らしいがマイアミの古ホテルにおいても様になりそうな風貌だ。
なにかことがあればカウンターの陰からショットガンでも持ち出しそうな雰囲気なのだ。

俺はその日、北埠頭近くの辺鄙な街区、北浜町へと向かった。
浅部という刑事に聞いた藤村泰三と言う探偵に会ってみようと考えたのだ。
よく似た時代もののビルがならんだ場所にその古ぼけた、渋すぎるビルヂングはあった。
もとはサーモンピンクだったとおぼしい。たが時代に晒され土気色に見える。
1階には「探偵事務所・藤村」の看板が掲げられていた。
1階の奥には今時珍しい…というより絶滅しているはずの「歌声喫茶・雅」なんてものまであった。

藤村の事務所のドアをノックした。
部屋の奥から甲高い声で「集金なら季節ごとに1回だ。もの売りならお断りだ。依頼人、相談者は入ってくれ」
俺が中へ踏み入ると、やたらでかいデスクに両足を上げた三十代半ばらしい男がいた。
名前からよれた中年男をなんとなく想い描いていた俺は苦笑いしそうになった。
リーゼントにスタジャン、お決まりのバスケットシューズ。
50年代カタログから飛び出したような出で立ちのほそ面の男だった。

「場合によっては依頼人になるかも知れない。端的に言う、繭子の事で来た」
藤村はとたんに睨みつけるような目つきで俺をみつめ返して来た。
リーゼントの前髪がいく筋か額にかかっている。昔、マイトガイと呼ばれたアクションスターに似ていなくもない。

「さっそく脅しをかけて来たのかい。俺を甘く見てるようだな。俺は正義は必ず勝つと信じてるんだぜ」
何か勘違いをしているらしい。
俺は肩をすくめて見せて、部屋を見回した。傷だらけのギターが壁にかけてある。
何故か馬の写真がある。競馬馬でもない。よく解らない趣味だ。
ダーツの大きな的まである。投げナイフが3本ささっていた。さらにデスクの上にはダイスがある。
さいころが5個縦に重なっていた。

「端的に言う。俺は繭子の恋人だった男だ。あいつの死因を探っている。脅しに来たスジ者ンじゃないぜ」
藤村は、今度はきょとんとした表情だ。そうなると年の割に可愛げのある顔にも見える。


艀にて

今日も「艀」へ行った
天気予報では雨が降るはずなのに、日が差し込む土曜の午後

アマリア・ロドリゲスの「暗いはしけ」が
かかっていた

「艀」ではファドがよくかかっている
物悲しいような独特の旋律を私も好む

凾館街角商會の一番の働き者の棟方氏は
前まで江差追分の仕事で忙しがっていたが
「江差追分とファドってルーツが一緒だとか」と言うと
えらく興味を示していた
宮本輝の小説でそれを題材にしたものをかつて読んだ受け売り(笑)

ファドというと日本では ちあきなおみ

繭子が死んで、繭子の部屋に「海のそばで殺された夢」の歌詞を
書いた紙と1枚の Photo があったらしい

「海のそばで殺された夢」はちあきなおみが唄っています
私はその唄を聴いてみて、何だか鳥肌がたった
繭子はジャズ唄いなんだけど、殺される(多分)少し前頃から
歌う唄も変わっていったような気がする

「海のそばで殺された夢」
(作詞・作曲は友川かずき)
月夜の晩に 夢を見たよ
海のそばで 殺された夢~~~

今日は「艀」で珈琲を飲みながら
そんなことをボーっと考えていた一日

明日も雨は降らないらしい


藤村泰三は俺の事情が判ると暫く黙っていた。
背後のチェストを開けてバーボンを出して来た。ショットグラスがふたつ。
「ターキーくらい飲むだろ。喉が焼ける感じも悪かない」
ふたつのグラスに注ぐ。
「まず、飲みな。話はそれからだ」
そう言って泰三は手首をクイッとかえす鮮やかな手つきでグラスを空けた。
そして語り始めた。

「こいつは長い話なんだ。この街にはふたりのボスがいる。
世間に姿をみせている岩船組なんてやくざは使いっ走りだ。
この街は悪名高いバブル景気以来このふたりのボスのものになったと言ってもいい。
ひとりは国会議員の権藤重太郎、もうひとりが市長の黒川栄作だ、長期政権てもんだ。
俺の親父は不動産と建設会社をやっていたが、郊外開発と市内観光拠点の開発でこのふたりに逆らった。
もう15年も以前の話だ。
ある日、東京の大学から帰省してみると…親父は泥酔して心臓発作を起こしたとかで溺死していた」

「函館湾に浮いてたってわけか」

「そうさ。親父はなるほど酒も飲んださ、
だが深酒をした事もなければ、歩けなくなるほど飲んだ事は一度だってない。
昔、ラグビーの選手だったから身体はくそ丈夫だった」
「親父の葬儀が済むと、社員は全て引き抜かれて、下請けもこぞって手を引いた。
表向きは跡継ぎの俺がまだ学生だつたし、おふくろも病弱だった。
将来性はゼロってわけだよな」

「で、そのボスとやらの仕業だと…」

「親父の日記が出て来た。
仕事のメモも兼ねたもので社員にも言わなかった相手のやり口やいろんな手口が書かれていて、
死ぬ前に権藤と黒川に密かに会った事も書かれてたよ。

その場で親父はふたりのやり口を痛罵したらしい。街はあんたがたのものじゃないってな。
ウラから手を回したやり口を新聞に書かせると啖呵を切ったようだ」

「親父さんは正義漢だったわけだ」

「いやー。親父だってのしあがるにはある程度の事はやったさ。
だがそれはあくまでも商売のやりあいの範囲だった。人を踏みにじるような真似まではしなかった。
要するに…そこまでやるのは人として許されないって所で親父は怒ったんだろうよ」

「で、繭子の件にクビを突っ込んだのは…」

「なんとなく親父の死に様と似ていた。
この街でワケの判らない事件には必ず岩船組が絡んでいて、その後ろにはあのふたりがいるって寸法さ。
繭子さんの時も組の奴らの姿がアパートの廻りにあったらしい。
死体が…あ、すまねぇ、遺体が上がる直前にマンションの管理人に幾らか掴ませて部屋に入ったヤツがいたらしい」
「なるほど、いろいろあっても証拠はなにもないって事だな」
「状況がアヤシイってなれば身代わりが自首して来て一件落着、バカな話さ」
「警察はどうなってるんだ」
「歴代の署長は必ずあいつらの手が伸びてる。キャリアの若い署長は赴任中無事で過ごせればそれでいいのさ。
上級職の連中も同じだ。この街の昼も夜も、商売をしている連中は皆んな逆らえない」
「浅部って刑事はあんたの事も教えてくれたし、事件に食いつきたがってたが…」
「ああ、浅部さんか。あの人はましな方だ。
毎回、妙な事件の時は食い下がってるらしい。
けど…判るだろ。組織ってものは個人の意欲じゃどうにもなんないのさ」

「いろいろな事が判った。あんたを訪ねて良かったよ」
「まぁ、楽な話じゃない。気をつけなよ」

俺はターキーをもう一杯もらってから藤村の事務所を出た。
立ち止まりタバコに火をつけた。
奥の「歌声喫茶・雅」から女が出て来た。
「まぁ、お煙草は喉にも、肺にも良くはありませんのよ。
折角の健康で立派な身体を蝕むもとなのに…男の方はしかたないものね」
大柄な派手な顔立ちの女だ。ドレープの多い、黒いドレスを見事に着こなしている。
驚いた事にコルトのジョーも一緒だ。

「おンやぁ…。妙な所で会うじゃねぇか。
ははん、藤村…ね。なぁ、忠告しといたはずだ、それにお友達は選ばなくちゃいけねぇよ、二等航海士さん」

「ジョー、あんたは岩船組とかの組員なのか」
「おいおい。見損なっちゃ困る。俺はまぁ客分てヤツだ。こんなスマートでクレバーな組員はいねょ」
俺たちの話声を聞いたのか藤村が出てきた。
「俺の事務所の前は集会所じゃないぜ。早く散ってもらいたいね」
ジョーが嬉しそうな笑顔で藤村を見た。まったく、こいつの反応は妙だ。

「藤村。お前ェとはいつかサシで勝負がしてぇもんだ。それまで気をつけとくんだな」
「ハジキだけが取り柄のバカに付き合う気はねえよ」そう言うと藤村はドアを閉めた。

俺はタクシーに手を挙げた。
「ジョー、お前に会いたくなったら何処へいけばいい…」
「チッチチ…。聞き分けの悪い奴らばかりだなー、
俺に会いたきゃハーバーライトってキャバレーに来な。ヒマな時ぁカウンターで飲んでる」

大柄な女は自分の車らしい方へと歩いて行った。後ろ姿はそれなりに凛とした雰囲気だ。
歌声喫茶だと…他人の趣味は判らないものだ。そんな所に収まるとは思えない視線だった。

「おい、五稜郭三筋町へやってくれ」
タクシーは走り出した。バックミラーに映るジョーは指でピストルをう撃つ真似をしていた。

コルトのジョーが教えてくれたキャバレーハーバーライトは風森町にある。
この辺りは昔の遊郭がひしめいていた街区だと言う。大きな酒場が集って居るらしい。

ハーバーライトはそれなりに凝っていた。
一度表階段を上がり、ドアを入ると階段状のエントランス、そして中央がダンスフロア。
フロアの周囲と2階が客席になっている。
俺がボーイに案内されて入った時は半裸の踊り子がひとりで踊つていた。
人気のある娘らしい。フルバンドが並んで演奏をしていた。

奥のカウンターには、なるほどジョーがいた。
ジョーは例のニタニタ笑いを薄く浮かべている。
「よぉ、すぐに現れると思っていたぜ。やっかいな野郎だな」
「あんたとお友達になった方がいろいろと早道のような気がしてね」
「はん…。早道はいいが地獄への早道になるかも知れないんだぜ。
ま、俺も実はお前ぇと話して見たかったからな。今夜はぶっそうな線は抜きにしてダチとして飲もうじゃないか」

ずんぐりした体型の、タキシードを着込んだ男が素早さを感じさせないさりげない身ごなしで近づいて来た。
「ジョーさん、初めてのお客様、ジョーさんのお知り合いならご紹介願いたいものですな」

ジョーが珍しく、笑いを収めて向き直った。どうやらこの男が嫌いらしい。
「あ。そうだな。久我…こつちはここの支配人でカーク高階。昔はならしたバンタム級のボクサーだった。
ごっついキドニーブローでひとり殺してる」
「ジョーさん。いや試合中の事故と言うやつで。それも大昔の話ですよ。久我さんとおっしゃいますか」
「ああ。幾度か来るかも知れない。宜しく」
「そうですか。ウエルカムドリンク。私から一杯目は差し上げましょう、何がよろしいでしょうか」
「断る…。とは言わないよ。ターキーのオン・ザロックをくれ」
「ありがとうございます。今後とも宜しく…」

カーク高階の視線ひとつでバーテンダーが来た。注文を受けると慇懃な仕草でグラスを出して来た。
大ぶりのグラスだが、相当の高級グラスだ。
カーク高階は静かに一礼するとバックヤードへと消えた。

「表情の割に危ない視線の男だな。冷たい…と言うのとも違うな」
「支配人でいるのが不思議なくらいぶっそうなヤツさ」ジョーは無表情で言う。
「この店は奥に随分と面白い仕掛けを持ってるみたいだな。本当の稼ぎはそっちか」
「久我。俺はお前ぇが嫌いじゃねぇ。ただ仕事ってやつがある。立場ってもんだ。
必要のない事に好奇心を向けるとろくな事はないぜ。
だが、お前ぇ、ただの二等航海士じゃねえな。なんだか俺と同じ匂いがする」
「よしてくれ。ただの船乗りさ。ただ南米辺りはこの手の世界が当たり前だ。
なんとなく鼻が効くようになってるだけさ。それに、ジョー、俺が探してるものにはなんだって必要なんだがな」
「お前ぇがまだ良く解らねぇ。ただの二等航海士じゃ無い事はもう十分に解ったけどな」

演奏が止んだ。
踊り子が砂糖菓子みたいな笑顔と、おおげさな媚びをあふれさせた仕草で引っ込んだ。
客席がざわつこうとして一瞬、2階席フロアから階段を降りながら
ギターを抱え、歌いながらゆっくり降りて来た男がいる。
バンドが戸惑いながらも演奏を合わせていく。

「♬町のみんなが 振り返る 甘い夜風も振り返る〜…♬♩」妙に甲高い声だ。俺はあっけにとられた。
コルトのジョーが「あの野郎…」と呟いてハンチングを目深に下ろしてしまった。

不思議な事にスポットライトが男を浮かび上がらせる。
男は藤村泰三だった。
店の奥から「野郎…」と云いながらこわもての男たちが5、6人出て来た。招かれざる闖入者なのだ。
藤村はフロア中央まで来て、なおも歌い続けている。

「…♬一緒に言いましょ アイ・ラブ・ユー グッドナイトとふた〜りにウインクしている夜の風〜」
出て来た男たちはすぐに藤村を取り押さえようとするかと思ったら、
「野郎…」とか「ただじゃすまねぇぞ…」云いながらも中腰のままで、
麦酒瓶やこん棒を手にはしていても藤村を取り巻くだけで歌い終わるのを待っている。

歌が終わったらしい。演奏も終わった。
多分どこからか侵入して来たのだろうがそれにしてもバンドがちゃんと合わせるのが俺には不思議だった。
男たちがいっせいに殴りかかった。
藤村はあざやかに躱しながら全員を床に這わせてしまった、
見た目以上に格闘技にたけている。恐ろしく身軽で、腕が立つ。

カーク高階と今度は少し本格的な雰囲気の男たちが3人出て来た。
「藤村さん。困りますねぇ。酔狂な真似もほどほどにしてくれませんか」
「俺も遊ばせてもらいたくてね。余興くらいやらないと失礼かと考えたのさ」
俺はさすがにあきれた眼で藤村を見た。

昼間のフィフティーズ・ファッションとはことなり上下は黒の革製のスーツだ。
しかもそろいの黒のテンガロンハットまでかぶっている。どういう性格なのだろう。
それに…腰の後ろには明らかにホルスターに差した小型のリヴォルバーを身につけている。
コルトのジョーが嬉しそうに前へ出ようとした。
背広の前を開き気味にしている。
抜き撃ちが得意なヤツの仕草だ。


その Photo

強風である
電線のうなりでしょうか
風の音が不気味な夜です

こんな夜は外へは出ずに
家でじっとしているのがいい

部屋の明かりを
本を読めるくらいの最小限に落して

飲み物は何を?

電気ブランを

もうだいぶ以前のことだが、のすたるじっく着物に凝っていて
友人たちと着物を着て夜の街へ繰り出したことがあった

五稜郭三筋町に電気ブランを置いている BAR がある
そこに着物を着て老若男女総勢7人で行った
大正ロマンあるいは昭和初期頃のあんちっく着物の女給さんが
迎えてくれるお店だ

誰が女給さんで誰がお客かしばしわからなくなった(笑)

朱色のおしぼりを出してくれる
これが何とも淫靡でよい

だがそのお店、ひとつ成りきれていない
全くそぐわないと思うがカラオケがあって
お客がニューミュージックなんぞを歌うのである

が、その日は良かった
「マロニエの木陰」(松島詩子)なんて唄を知っているかしらん
それやら先日お亡くなりになった二葉あき子さんの「フランチェスカの鐘」なんかを
真っ赤な年代物のワンピースを着た女がカラオケで唄っていたのだ
それが繭子を見た最初

粋だ と思った
すごく上手であった
ま、何でも唄えるってことね
何が本来好きだったのだろう
ジャズ唄いではあったけれど

電気ブランは時折しか飲まないから
全然減らない
だが、こんな風がうなりをあげている夜には
薬草のような味のする電気ブランを
独りで飲みたい気分になる

そして世界文学全集なんかを置いている本棚を眺めて
ブリヨンの幻想世界に誘われるのです

な~んて・・・
繭子の言いそうなセリフを書いてみた

馬と・・・

かつて馬が活躍していた時代があった
馬は200キロもの荷物を積まれ、荷役運搬で人間と共存していたのである

自動車・ヘリコプター運搬が主流になった1975年以降でも
馬でなければ通れない道では馬追いが活躍したという

馬追い・・・
実際見たことはないはずなのに
山道を降りてくるシーンが浮かぶのである
人物真正面の Photo を
目にした記憶がある そんな気がする
そしてなぜかそれは函館の鉄山のような気がする

こんな感覚もデジャブですかね

駄載(だんづけ)と言う言葉がある
左右1 本のロープで素早く馬の背に荷物を積む古来からの技のことで
駄載の伝統技術は国内でも函館にしか残っていないのだそうだ

40年ほど前の函館その近辺では80人近くの駄づけ業者が存在し
薪や炭、竹、植林用の苗などの運搬に従事し、また、送電線の資材運搬も行っていたそうだ

それから10年、数名と減ったらしい

私はかつて「職人」をテーマに撮影していた時期があったので
函館へ来た時、このことに大変興味を持ったが
「馬追い」にたどりつく伝手もなくそのままになった

繭子は「馬追い」の存在を知っていた
私は驚いた
何でそんな話しになったのかは忘れたが

そして「あ~、そんな感じの写真もある」と言ってのけた
とにかく、驚いた

繭子のお父さんこそ
江戸時代から続く「馬追い」なのであった
繭子は幼少時は山の中で育ったようだ
全く似つかわしくないが

お父さんに色々聞いたりしたいと思ったが
今は介護施設にいて無理なのである


おかしな場面になった。
藤村とジョー、そして俺の三人がキャバレー・ハーバーライトのカウンターで飲んでいる。
支配人のカーク高階は許されるなら俺たちを皆殺ししたいとでも言うような形相で奥へと消えた。

「なぁ、久我、コルトのジョーを甘くみないでくれ。
お前は気まぐれで俺を尋ねて来たんじゃないんだろ」
「ほぅ。俺の行動の意味を読んだってのか。ま、駆け引きはなしだ。
藤村の話を聞いた。どこかに違和感があった。
こいつの話と繭子の死んだ事がもうひとつしっくりこない。
で、藤村が思う坪にはまって幻影をみせられてると思ったのさ。
なぜなら…こいつは殺されもせずうろうろしている。
いや、うろうろさせてる方が目くらましの効き目があるから…そう考えた。
すると、何かが見えて来た」

藤村は唖然としている。
「どう言う訳だい。俺がどんな目くらましにひっかかってると言うんだ」
ジョーがニタニタ笑う。

「ものが見えすぎると、危ない。と、言って…止まるヤツでもないか…」
カーク高階が再びやって来た。

「綺麗事は終わりだ。久我、藤村、ボスが会うそうだ。ついて来な」
「ホッホー。異例の謁見てわけだ。お前らは国賓待遇だぜ」ジョーがことさら笑う。
カーク高階はそんなジョーを睨みつけた。「いい加減にしろ」

奥へと向かい、ウエイティングルームらしい部屋へと入った。
暖炉があった。暖炉の両側に自然の丸太を模した飾りがある。
その丸太の先端が鷹の彫刻になっている。丸太の鷹だ。

カーク高階が右の鷹の何処かを押して廻した。暖炉が引き込まれ、横にスライドした。
もうひとつのドアが現れた。その奥は…思った通り秘密のカジノだつた。奴らの本業と言う訳だ。

ルーレットやカードのテーブルが並び、乗客らしい連中が遊んでいた。現金が無造作にやりとりされている。
さらに奥、階段をあがると、またドア。
そして、その最後のドアの中は、随分と上質な見事な趣味の部屋だった。

一画に小さめのバーカウンターがあった。
そこにカクテルドレスを着込んでグラスの用意をしていたのは歌声喫茶のママだった。
藤村は驚いた様子だった。
部屋の奥、大きなデスクに男がいた。こいつが岩船だろうか。
細身の俊敏そうな身体つきだ。鋭い眼をしている。
しかし表情はゆったりとした感じだ。
不適な…と言える物腰だ。俺たちを冷静な視線で見つめて来た。
俺は確信した。世間で言われているような「大物の使いっ走り」で収まる男ではない。
むしろ使うタイプだ。岩船は微笑した。そうすると柔和と言っても良い雰囲気を漂わせる。
大したものだ。


「錨とパイプ亭」のマスターから電話があったのでかけつけたあの日
1枚の CD を見せられた
繭子だった

随分若い頃のだろう
どこかの酒場(錨とパイプ亭ではない)キャバレーかな、で唄っている
演奏しているバンドマンたちも何となく時代っぽくて面白い

奥の方でルーレットをやっている人たちがいる
このキャバレーのような酒場はどこなのだろう

「この CD を君にあげようと思って
この店に置いていたってかけることもないし
そもそも、このジャケットが問題なんだ ま、君が持っていてくれよ
繭子とは親しかったのだろう?」

マスターはそう言って私に CD を持たせたが
私と繭子とが、親しかった・・・それは違う、と思う

確かに、出会ったのも随分前のことで
以前から知ってはいたけれど
それだけのことのような気がする

繭子の生まれやお父さんを知っている
それが親しいってことになるのだろうか

彼女の唄は好きで「錨とパイプ亭」ではよく出会って
隣に座って話しもする

一緒にドライブしたこともあるけれど
それが親しく見えるならそうだが

その実、私は繭子のことはよく知らない
そう思う

けれど、繭子が死んでしまって
淋しいし
繭子のことをよく思い出す

親しかった・・・のだろうか

「ジャケットが問題って?」
「いや、俺もよくわからないがね・・・」

あんたの方がよくわからないヨ
そう思ったがだまっていた

繭子がいなくなって
私にとって「錨とパイプ亭」は少し足が遠のいた
でも、たまに顔をだそう


コルトのジョーはドア近くの壁に寄りかかっている。
藤村はもうひとつ展開が判らない表情だ。
藤村が思い込んでいたのと岩船の人物像が違っていた事にもよる。
男は立ち上がると細巻きのシガーに火をつけた。

「わたしが岩船だ。こうして会うのは初めてだな」いやに柔和な表情のままだ。
「皆さん、お座りになって…」雅のママが飲み物を運んで来た。
「暫くはずしていてくれ」岩船が言う。
「男の方々はど゛うして仲間だけで遊びたがるのかしら フフッ」と婉然とした笑みを残して
ママは別のドアに消えた。

「わたしは優れた人材が欲しい。この世界は多少のいきさつがあっても、手を組んで面白い事ができる…
そこが良いんだが…
唐突かもしれないが久我さん、あなたにも私は興味がある。調べてもある
藤村さんも、期待できるものは大きい」
俺はイヤな気分がした。忘れたい過去をこいつらはわざわざ見つけてくれたらしい。

「久我さん。この函館を出てあなたは南米にいましたね。なかなか激しい経験をしたようだ」
「昔の事だ。あんたには関係のない話だ」
「そう。だが軍隊にやられかけた村人とともにゲリラ戦を経験した。
ロボ…狼と渾名されるほどの凄腕のガンマンだったとなると、大変興味深い」

ジョーが眼を細めて小さく「俺のカンに狂いはなかったなー」と呟いた。
藤村はまた微かに驚きを示した。

「若気のいたり…その場の成り行き…と言うやつさ。船に乗ってる間にみんな潮風が持つて行ってしまったよ」
俺はバーボンを飲んだ。

その瞬間!! 岩船が身体を沈め、左手でリボルバー拳銃を俺に投げた、
同時に右手で別のオートマチック拳銃を抜いた。
俺は反射的につかみ取った拳銃を手の中で廻し、激鉄を上げ、岩船に狙いをつけた。
一瞬…とも言えない短い時間。岩船の動きは正確に銃口を俺に向ける直前の角度で止まった。
岩船は笑った。

「お前の身体は忘れてはいないようだな。今の動きはペルーのロボそのままだろう」
俺は手の中の拳銃を見つめた。S&Wのリボルバー。早撃ち用に握りが改造されたタイプだ。
拳銃をテーブルに置いた。
「よしてくれ。ここは日本だ。ペルーの山奥じゃない。
俺にはハジキを持つ理由がないよ。弾倉が空のハジキを振り回しても仕方がない」
岩船はニヤリと笑った。「さすがに重みで判るだろうな。弾はジョーに言えば幾らでも出してくれる。
そいつはプレゼントだ」
相手にとっても、こつちとっても危険な賭けだ。それでも俺たちを使いたい大勝負を岩船はしようとしている。


金魚すくい

すっかり函館は秋
9月15日、以前は敬老の日であった
この時期に亀田八幡宮のお祭りがある

小さいながらもお化け屋敷やオートバイショーがある

オートバイ乗りはキグレサーカス団長の息子だとか
以前、飴細工職人・坂入氏から聞いたように思うが
記憶が定かではない 異世界である

異世界といえばサーカス→ボリジョイサーカス→呼び屋「神彰」といきつく
函館人物として、こんな人がいたのかと驚いたものだ
最後は居酒屋「北の家族」を作った

「北の家族」というと1973年に NHK の朝ドラで放映された
舞台は函館 高橋洋子出演
今、見たいと思うが無理らしい

その頃の函館は近いようで遠い
ディスタンスではない
かすかな記憶の中に存在するそれは
今の函館と似てはいるが色彩が全く違う

ハリストス正教会も今のようにきれいではなかったが
生活に解け込んでいる感じが素朴で良かった

まだ観光化されていない魅力的な建物の中で
今はもう亡くなった者たちや
その頃若かった懐かしい人たちが
生き生きと生活している映像が
突然明瞭に浮かんできて私を驚かす

敬老の日には亀田地区で「八幡宮のお祭り」があり
人々は楽しむ
もう何十年も前からこれは変わらない

それを仕切っているのが岩船組だということを
誰も意識することはない

何事もなければ


岩船との会談は終わった。
「当座のギャランティー。それなりの働きをしてくれたらさらに納得できるものを渡そう。
もう一度言うが、お互いのわだかまりを越えておもしろい事をやろうじゃないか」
俺と藤村に300万円ずつの札束が渡された。
「後はジョーにまかせる」そう言うと岩船はデスクに戻った。

「ヘッへへ。随分とおかしなトリオができたもんだ。まぁ、こう言う展開も嫌いじゃねぇ…」
ジョーは愉しそうに俺たちを先導した。部屋を出て別の階段を下りた。地下道があった。
2度曲がり、またコンクリートの階段を上がる。
鉄の扉を開けるとそこは明らかに本格的な射撃場だった。
「こんな場所を見て驚くようなトーシロでもないだろ」ジョーはそう言うと小部屋のスチール棚を開けた。
さまざまな拳銃があった。

「好みのものを取りな。撃つと手首が吹っ飛ぶようなオカシなものはねぇ。米軍経由の優れモンってやつさ」
藤村も腹を据えたらしく表情も変えずに短銃身のリヴォルバーを取った。
コルトローマン。2インチ半のスナッブノーズだが38口径、マグナム弾も使えるやつだ。
腰につけたコルト・ディテクティブをかわりに放り込んだ。
ジョーはニタニタしながら50発入りの弾丸カートを出した。
藤村は弾倉をスゥイング・アウトして覗き、銃身の中も確かめている。
俺はS&W・M547。3インチ銃身のリヴォルバーを取った。

「随分と渋いものが好みだな」笑いながら俺にも50発の弾丸を寄越した。
ジョーは上着を脱ぎホルスターごと銃を下ろした。
「普段は目立ちすぎるから小さいヤツを使ってる。だが今度はハードな場面がありそうだ」
そう言うとコルト・ガバメント・マークⅣを取り上げると装填済みのマガジンを叩きこんだ。
「使いやすいホルスターを勝手に持っていきな」
別のロッカーにさまざまなタイプのホルスターがあった。

ジョーは俺たちを促し、射撃場の階段を登った。
ほぼ地下2階分の階段だ。上がるとそこは倉庫だった。
大きな木箱がぎっしりと詰め込まれた、暗い倉庫の通路から重そうな鉄扉を開けて外へ出た。
そこは風森町から離れた、昔の職人町、曙町の一画だった。
倉庫は路地の突き当たりで、入り口の角に小さなバーがある。
えらく暗い小さな看板がぽつんと下がっていた。

ジョーはそのバーへと入った。低く古いジャズが流れている。客の姿はない。
カウンターには初老の男がひとりいた。バーテンとしてベストを着込んでいる。
「向こうのテーブルにバーボンとウィスキー。暫く使うぜ」
バーテンは黙ってかすかにうなづくいて支度をした。

「さて、久我に、藤村。ちょいと深い話ってのをすましとこうか。
何しろ俺たちは岩船に見込まれたガンマントリオだ。仕事の話は俺から伝える。
後はお前ぇたちの気持ちの整理って所だ。
ボスは毒には毒を…危険な獣を上手くあやつろうってワケだ。お前ぇらは虎穴に入って虎の子を手に入れたい。
俺としては…一応ボスのために仕事が終わるまでの品質保証ってのをまかされた事になる」
そう言うとジョーはニタニタと例の笑いを浮かべた。


プレゼント

以前、職人をテーマに撮影していた頃
この街の曙町が、かつて職人町だったと聞いた

その面影は今はなく、ただただ入組んだ路地があり
似たような路地を抜けると似たような空き地がある、という
ゴーストタウンのようになってしまっている

何年前になるか・・・
弟が馬の蹄鉄が欲しい、と言うので
探したことがあった

ミニチュアストーブを作る山下さんの友人の
あるおじいさんを訪ねた
蹄鉄工だった人だ
曙町にも何軒かあったらしい

「魔よけか何かにするのか?」と奥から聞いてくる
「弟はアクセサリーデザイナーなんです」
「へぇ」

そしてその蹄鉄を箱に入れてリボンをかけた
弟にプレゼントをする習慣はないが
久し振りに函館へ帰ってきた弟のちょうど誕生日だ

おじいさんの家を出ると
夕闇が濃く9月とはいえかなり寒くなっていた
電車通りに出るのは確か左の方だったな、と思いながら
歩いていると大きな倉庫があった
こんな倉庫はなかったなと思い路地を戻ると
「凾館酒場」と小さな看板が暗くボ~と浮かんでいた
見落とすような小さなバーだった

ドアを開けると低く古いジャズが流れていた
カウンターに腰掛け、ヴァンショーが飲みたいと言うと
初老の赤いベストを着たマスターは物静かに
「ホットウイスキーも暖まりますよ お嬢さん」と言った

この店にはウイスキーの方が合うようだと思った
お客さんは他に誰もいなかった

いい店だった
だが曙町にあまり行かないこともあり
あれから訪れていない

弟は蹄鉄をとても喜び
翌日、東京に戻った
弟の誕生日は9月18日
何歳になったのだったか

凾館酒場

月明かりでようやく見えるくらいの
暗闇の曙町 まだ8時なのに

あれから何年かたっていて
辺りは更にゴーストタウン化しているように感じる

蹄鉄工であった佐藤のおじいさんの住んでいた家は
記憶の場所になかった

だから BAR「凾館酒場」の
小さな暗い看板を見つけた時は
古い友人と再会したように感無量であった

わざわざ電車に乗って来たのだった

それは初めて訪れた時と同じたたずまいで
幻影のように出現した

私は何年振りかでその小さな BAR のドアを開けた
あの初老のマスターがカウンターに立っていた

初めて来た日も9月の今頃だったが
あの日は寒かった
今日は、もう残暑とは言わないが暑くて
夜になっても半袖のままで上着はいらない

「ホットウイスキーにしますか お嬢さん」
マスターが笑いかけた さすが客商売
かつてただ一度だけ訪れただけの客を覚えていてくれたんだ、と思った

今日も他に客はなく
古いジャズが低くかかっている

「このあたりは職人町だったのですね
あの先の大きな倉庫は何だったのですか」
カウンターでグラスを磨いているマスターに話しかけてみた

「あの倉庫は元は石鹸工場だったのですがね、今はよくわかりません
ヌード石鹸というのが流行ったのですよ」
「ヌード石鹸?」
「お客さんでそこに勤めていた人がいましてね 
何でも、1枚1枚プレスして作るのが虚しくなるって苦笑していましたよ
その石鹸を使用して減っていくごとに、まぁ、絵なんですが
女性がヌードになっていくんでしょうな」
「へぇ、おもしろいですね」
「職人と小さな工場が点在している面白い街区だったのですがね
今はこの通りです」

かつての職人町・曙町は
大きな酒場が集っている風森町のほんの隣だが
全く趣が違う

今は荒れた家や小さな工場もだんだん
更地になっていっていると言う

こんな場所にこんな BAR があったのだな
友人たちでここを知っている人はいるだろうか
所長は知っていそうな気がするが・・・

聞いてみたい気もするが
やめておこう

口に出したら消えてしまいそうな
あり得ないがそんな気がする
幻のBAR 凾館酒場


コルトのジョーが俺たちを誘ったのは暗い秘密だけを詰め込んだ倉庫を見張る位置にある、曙町の路地。
その角にあるBAR凾館酒場だった。
暗い電灯看板だけでほとんど客を誘う気がない酒場だ。
それでもきまぐれに好奇心と、偏った趣味の客が訪れる事もある。
そんな時は初老の男がバーテンとして応対する。

この男は深江彰(あきら)と言う。かつては銀座の一流のバーでシェーカーを振っていた。
女の事が原因でやくざともめた。
女を麻薬の苦しみから救うために自分も一流の暮らしを棄てて流れ歩いた。女は死んだらしい。
この潮騒の街に流れて来て、岩船の知遇を得た。
見張りだけの店にそのまま忘れ物のようにいつも黙って暮らしている。

ジョーはシングルモルトを香りを愉しみながらのんでいる。
「なるほど岩船のやり方も度胸がある。それなりの男だな。
繭子の事を探りたい俺の、もうひとつの面にいきなり食い込んで来た。
自分をまるごと賭けるヒリヒリするものを求める所だ。
その修羅場を味合わせてやるから、好奇心と正義漢を眠らせろってわけだ」俺はそう言った。

藤村もにやりと笑うとロックのウイスキーを呷った。
「まったくな、昔話より、お前の好きな荒事に放り込んでやるから、思い切り遊べばいい。と、そう言ってる。
俺と組めばまだまだ面白い眼を見せてやる…ってね」

「ヘヘーン。で、お前たちは狙い目を脇へおいといて誘いに乗ってみた…と。Ok、OK…」
ジョーは細々話さなくても会話以外の部分を理解したらしい。

「さて、ビジネス・オン・ザ・テーブルと行こうか。
1ヶ月後に海峡に船が来る。
ハジキやヤク、洗濯したいドルの札束…そんなものを金にして20億分ほど積んでな。
ついでに香港から洪連金、宗文明なんて大物が来る。
で、ロシアルートのコネクションを作ろうって話さ。
ここでまとまれば岩船と連中はすぐにサハリンだ。もちろん密航だ。

相手は警察と軍を抱き込んで沖合まで出張って来る。
フョードルフと言うロシアン・マフィアの極東のボスだ。
なにしろ、中国とロシア相手だ。どんな奴らが来るのか、どんな道具が隠されてるか読めない。
相手はよ、下手すりゃ、ロケットランチャーくらいぶっ放しかねないのさ。
で、実力あるガンマンがほしい。
俺もひとりじゃ手が廻らねぇ。そこへうろつき始めたのがお前ぇたちさ。クックク…。ご機嫌な話だろ」
藤村が声もなく笑った。

「久我、お前が魅せられるいのちまでヒリヒリする話だな」
「俺は、意外にのどかに生きてもいけるんだがな」俺はなんとなく呟いた。
ジョーがそっぽを向いたままひとり言のように言う。
「いんやぁ。惚れてくれた女と静かな暮らしを置いて船に乗ったような男は…所詮のどかになんて生きられネェ」
こいつはなにもかも知っているようだ。
どこかで船の汽笛が鳴っている。
その時、深江がテーブルに来た。こいつはほとんど足音を立てない。
囁くような声でジョーに告げる。

「かなり離れた場所に最近不振な人影があります。
ただの観光客にも、通りすがりにも見えますが…あれはサツの匂いがします」あまりくちびるを動かさないが、
至近距離にははっきり聴こえる喋り方だ。
ムショにくらいこんだヤツが身につけるやり方だ。
ジョーは眼を細めた。
「しばらく十分機を配ってくれ。しばらくはつまらねぇ騒ぎも起こせない。
年寄りの散歩とか、近所の掃除とか…いろいろあるだろ…なっ」
深江は面白くもなさそうな顔だ。「そうですね、最近運動不足ですから…」深江はカウンターに戻った。

店を出る前にジョーは監視カメラの画像をハイスピードでチェックした。
その素早く変わる画像記録の中にあのカメラバッグの女が写っていた。


ジャズ批評

5,6年前のジャズ批評
凾館酒場のマスター深江彰氏の好きなレコードも
紹介されている

色々な人が載っているが
皆ジャズに関してのスペシャリストたち
地方都市のジャズ喫茶やジャズBARも
老舗の名の知れたところばかりだ

凾館酒場がジャズBARとして名が知れているとは
思わないが深江彰という人物は違うのだろう

深江氏はリタ・ライスのクール・ヴォイスをあげている
アンニュイな雰囲気漂うオランダの歌姫
私も好きなのである

ここが居心地良いのは
低くかかっているジャズのセンスが
好みにあっているからかもしれない

それだけではないけれど

今日も来てしまった
今日もまた他にお客はいない
一度、他の客もいるここを見てみたいものです

客層を見てみたいと思う


ホテルを出ると刑事の浅部がまっていた。
「どうも急に雲行きがおかしいな。久我…呼び捨てにさせてもらう。少しお前と話したいんだがな」
「俺は、凾館酒場ってとこに珈琲を飲みに行く。そこで良けりゃ聞くぜ」
「深江の所か。ふーん、なるほど。危険な綱渡りか。いいぜ、俺もやつの珈琲なら久しぶりに飲みたいからな」
大昔のカーマニアなのか浅部はスカイラインGTなんて時代錯誤な車に乗っている。
浅部の無邪気な一面なのだろう。

凾館酒場へ入ると深江はまるで彫像のように夜と変わらぬ姿でカウンターに居た。

「これは刑事さん。珍しいですな…」そう云いながら素早い視線を俺にも向ける。
「久我がお前の珈琲を飲むと言うからな。俺もあんたの珈琲以外のほろ苦さが漂う一杯が恋しくなったのさ」
「酔狂な事を…、暫くお待ち下さい」
深江は一杯ずつ豆を煎る所から始めるらしい。
浅部が深江に向ける視線はどこか優しい。

「あいつがこうして流行らせてはいけない酒場をやってるのは…、岩船のセンチメントな部分でもある。
寂れた店を買い取って深江を住まわせた。
ある時期は深江もこの店も普通だった。ジャズの趣味は一流なものらしい。
特別なジャズマニアってものでもないらしいが趣味が良いってやつだろう。
だが…
この路地の奥の倉庫とか、2、3軒の建物が誰も知らないうちにとんでもない規模で改装されたらしい。
地下もいじったようだ。
建設会社も岩船のものだし、役所は抱き込まれているから、実態は判らない。
判らないまま工事は終わったようだ。それ以来、深江の店はことさら客に気づかれないようなものになって来た。
深江なりの岩船への忠誠だろう。
東京で廃人寸前のあいつを拾って、店と人生を少しだけ取り戻す時間てやつを岩船は与えたって事だ」

「詳しいな。警察を辞めても調査員の仕事ができるぜ」
「久我、お前も藤村も危険な綱渡りで何かをつかもうとしているな。
止める気はない。しかし、俺に手錠をうたせるような事にはなるなよ」
「あんたにしては似合わないセリフだな。
俺と藤村の死体がそこいらの路地に転がってるくらいが都合がいいんじゃなかったか」
「俺も最近国会議員や市長を隠れ蓑にして、自分を小さく見せて来た岩船のやり方に気づいた。
見方が変わると岩船の実力も、狙いもいままでとは違うものとして見えて来た。
お前たちがもくろみの途中で誰かを殺したり、殺されたりなんて事になるとまずいのさ」

そこへ深江が珈琲を運んで来た。
香りだけで濃い味覚が知れる上質の珈琲だ。
「浅部さん、時々は珈琲のためにお立寄り下さい。
最近良い仕入れルートを知りました、上質の豆を入れましたから」
「あー。俺が頻繁に立ち寄れる場所か。客を拒む雰囲気だろう」
「まぁ、特定の方はあまり関係ありませんので、どうかお気楽に」
なるほど、深江の珈琲は味わい深いものだ。
浅部の言うほろ苦いって事もなんとなく判る。
珈琲椀が控え目なウエッジウッドなのも深江の本来の趣味なのだろう。
そして、そうした深江の在り方をこうして許している岩船の心情も少しは理解できた。

男ってものは厄介だ。おかしな純な所を棄て切れないくせに、とんでもない悪事と非道の道を走り続けている。
俺はジョーが見ていた監視カメラの画像の古いやつを見るつもりだった。
カメラバッグの女が写っていた事から、繭子が写ったものもありそうな気がしたからだ。


凾館街角商會にも近く
息抜きのオアシスだった「艀」が閉店した

マスター夫妻とも親しくさせてもらい
とても居心地の良い喫茶店だった

夫妻はドイツに住む娘さんのところへ行く
以前から、マスターが70歳になったら、と言っていた
そして「艀」は40年の幕を下ろす

「これから私、どこで珈琲飲んだらいいか・・・
事務所の珈琲豆も・・・
所長、あれでいてけっこう味にうるさいじゃない?」

「深江さんのところがいいわよ、ね」
ママがマスターに言う
「深江さん? ママ、深江さんって凾館酒場の?」
「桜子ちゃん、凾館酒場知ってるの? 深江さんのいれる珈琲、美味しいわよ 
浅部さんも、うちとあそこのが好きなのよ」
「浅部さんも? だけど、あそこは BAR だし確か夜の7時からの営業では?」
「違うのよ、桜子ちゃん、看板が出ていなくても
行く人は行くのよ、ね、マスター」

マスターは「ん~」とうなっているのかうなづいているのか

「ところでマスター、閉店パーティの件だけど
坂木錠って、この人も来るわけ? ニヤついたいけすかない男だけど」
「常連さんだ、皆来る ジョーも
新聞社とテレビ局も来る」

40年続いたお店が閉店となるとそうだろうな、と思った
ファドを流すお店も函館では珍しいし
この二人やお店誕生・40年間には様々なドラマがあっただろうからね

月日がたつのはあっという間で
「艀」の最後の日は、雨だった

何かが終わった日に雨が降るのはいい
霧のような細かい雨が
「ごくろうさま」と静かに幕がかかるように
降っていた

地元の新聞に閉店の様子が載り
スペシャル番組で、夫妻のドイツでの生活まで
追うらしい

これから私は企画に行き詰ったら
「凾館酒場」まで珈琲を飲みにいくことに
なるだろう 少し遠いけれど


ホテルに戻ると珍しくマダム細川が電話で話していた。
「そうよね。残念ね。だんだん自分が馴染んだ顔と風景が
時間とともにフェイド・アウトしてくのね。あ、じゃ、またね」
電話を切ると俺に向かっていつもの皮肉めいた目元だけの微笑を投げかけた。

「あんたも艀って喫茶店…知ってたよね。40年やってたけど、今度閉めちまうのさ。
で、昔からの連中が集ったんだよ。フフッあいつ…ジョーとやらも来てたよ」

俺は思わずロビーの椅子に座った。
コルトのジョーがそんな日常的な普通の人たちと入り交じる風景が想像しにくかったのだ。
意外な事を聞くとこちらの行動まで狂う。

「あいつ、片付け忘れた置物みたいに、隅っこで憮然として珈琲を飲んでた。
桜子って娘に笑いかけようとしたら、笑いを作ろうとした機先を制して、
思いっきり、嫌い…!!って目つきで睨まれてたよ」
その話を聞きながら、俺は小さな疑問を感じた。だが、いま考えても仕方が無い。

間もなく、沖合に船が現れ、中国マフィアがくればいろいろなものが動き出す。
全てはそこに賭けるしかない。
刑事の浅部も常連だったらしい。艀は俺も一度入った事がある。
店主の人柄と歴史が生み出す、おちついた雰囲気の、こざっぱりとした店だった。
珈琲も美味かった。
だが昭和の香りと言うやつなのか、妙な懐かしさと、
何かしら、「きちんとした営み」といったものが創りだす味だと思った。
その時の俺は桜子と言う娘がカメラバッグの女だと気づかないままだった。

一瞬だけなごんだマダム細川の視線がいつものように皮肉めいたものに変わった。
カードを手にしている。
「随分と危険なきざしが出てるね。闘いのカード。つまんない事でいのちを投げ出すんじゃないよ」
俺も椅子から腰を上げた。
「投げ出さなくても、いのちってヤツは消えどころが決まってるものさ。俺はそう思ってる。
死ぬやつは真っ昼間にのどかな居間でも死ぬさ。死なないやつは戦場のど真ん中でも死なない」
「…そうだね。でも生きようと思わなくなったら…そんな気が無くなったら…死神はすぐに隣に来るよ」
「そうかい。せいぜい生きたいと祈る事にするよ」

俺は部屋に戻ると拳銃を分解し、部品の精度を確かめた。
組み立て直し、弾倉の動きを確かめた。
ジョーが寄越した弾丸には何んの問題もなさそうだ。フルメタルジャケットの38口径弾。
この弾が減った分だけ死人がでる事になるのか。
使い慣れた銃はペルーの山奥で錆びて、朽ちているだろう。
またこんなものを手にするとは思わなかった。
久しぶりにホルスターからの抜き撃ちの動作を繰り返した。
こんな動作はすぐに戻る。俺はためらう事なく人影に向かって引き金を引けるだろうか。
ふいにコルトのジョーのニヤニヤ笑いが浮かんだ。
それは「お前ぇはそん時には必ず誰より確実に撃つよ」と言っているようだった。

夜になると藤村から呼び出された。
「歌声喫茶とやらに行かねぇか」と言うのだ。
例の岩船の部屋にいたママも確かに気になる。
「俺とお前が行ける店か。入ったとたんに客に嫌われるぜ」
「まぁ、大丈夫だろう。俺の事務所の向かいのそこに行く必要がある。
これでジョーまでくっついてりゃ判らんが、俺とお前なら…悪人づらってものでもないだろ」
見当もつかない店だ。
とにかく上質の木肌にアールデコの模様が四隅に施されたドアを開けた。

店内は予想に反して歌声とか、合唱が響いているって訳じゃ無かった。
もっとも本気でアコーディオン抱えたコーラスリーダーが善人そのものの笑顔で歌っていたら、
むしろその方が恐ろしい。時代錯誤も程度問題だ。
落ち着いた風情の夫婦ものらしい客、中年のグループがひと組。
シャンソンが流れていた。
奥のカウンターでママが高齢の夫婦らしい客と話していた。
いかにも優しく、華やかな笑顔だ。
俺たちに気づくと、少し眉をひそめ、それとなく奥まった席へと視線で促して来た。
席につくとウエイトレスが注文を取りに来た。

ふたりとも珈琲を頼んだ。
差し出されたメニューにはむしろ紅茶の類いが数多く書かれていた。
ママの名は香月美奈子。岩船の女だと言う事は判った。だが、それだけなのか、
何か組織の中で重要な役割を果たしているのか。藤村はそのあたりの感触を探りたいのだろう。
船が来るまでの時間を無駄にしたくないらしい。頭に入れる事は全て確かめたいのだろう。

繭子の残した写真

「艀」閉店パーティの日のこと
帰ろうとした時、話しがある、と浅部刑事が来た

何となく私は周囲を見回した
最後に挨拶したマスター夫妻もテレビ局の人と話している
所長も用事があると言って、そそくさと帰っていった

視線を感じたのはジョーだった あのコルトのジョー
まだ、いたのか いけすかないけれど
あの日はあの場の雰囲気に圧倒されたのか、隅の方で静かにしていたようだ
何だか可笑しい

私は無視して浅部さんと外へ出た
雨である
「車まで走るぞ、桜子ちゃんの車の隣に駐車しているから
俺の車に乗ってくれ」

私の紺のワーゲンポロの隣で白のスカイラインGTが雨に濡れていた

「ハハハ~~~
今日は何か可笑しいことだらけだわ
浅部さんの車・・・ケンメリとかそんなの? 私、くわしくはないけど」
「いや、オホン! ま、そんなことはどうでもいいが
桜子ちゃん、見えるか? これ」
そう言って書類ケースから取り出したのは1枚の写真だった

汚れていたけれどすぐにわかった
私が撮影したロシア人の男の写真

「繭子さんのアパートに歌詞と一緒に置いてあったのはこの写真だよ
桜子ちゃん、知りたがっていただろう」

「私の撮った写真だ・・・」

「桜子ちゃんの撮った写真なのか
この男、知っているのか?」

「知ってるってわけでもないんだけど・・・
ロシア人の船員でしょ
錨&パイプ亭でアコーディオンを披露していて
その次の日に偶然、万代埠頭に停泊していた船にいるのに出会ったのよね
もう一人の船員と猫の写真、私の写真展で見なかった? 浅部さん」

「あ、あぁ、アレね」

「ふふ、覚えてないな、ま、いいけど
で、私、すぐにプリントして渡したら喜んでいたわ
言葉はわからないけど、そんな感じだった
もう4年くらいも前の事だけど・・・」

驚いた
繭子がこの写真を持っていたことが

だけど・・・浅部刑事に私の話しが役立ったのかどうか
そんなことはどうでもいい
繭子が戻らないことに変わりはないのだから

今日のような休日前の夜には
繭子の歌声を聴きたいのに
少しかすれたハスキーな声で唄う
Lover Come Back To Me


歌声喫茶・雅の店内は静かなものだ。
グループ客が帰ると、他の客をウエイトレスにまかせて、ママが俺たちのボックスに来た。

「おふたりお揃いで、シャンソンでもお歌いになりたいのかしら、
それとも懐かしいレコードが聞きたいのかしら」
婉然とした笑みというのがこういうものなのだろう。年齢の判りにくい容貌だ。
大きな瞳、豊かな髪、白すぎるほどの皮膚。ハーフだと言われても信じただろう。

藤村も微かに気圧された雰囲気だ。
「岩船さんと親しい女性なら新顔としてご挨拶でもと…ね、殊勝にもそう考えたのさ」
それでも藤村はすぐに気分を整えてそう言った。
俺はなんとなく彼女の手首の時計とブレスレットを見ていた。
特に凝った様子のないものだが、どうして身につけている装身具は合計すれば軽く1千万近くなるはずだ。
アンティークの逸品ばかりだ。
それを見事にコンディションを修正している。かなりの額がかかったはずだ。
趣味は良い。1930年代のテイストで統一している。
それを、ただの古ぼけた骨董趣味に見せないだけの服の選び方を知っているし、
外国暮らしをしたと思しい仕草が独特の雰囲気を醸し出している。

「香月さん…と呼ぶのも妙だな。やはりママと月並みに呼ぶ方がいいようだ。
俺と藤村は岩船さんの…そうスタッフになったと言う訳だ。
この間は話す機会も無かった。岩船さんが何んと話したかは知らない。
暫く…たぶん暫くの間仕事を一緒にやる事になった」
「久我…さんでしたわね。岩船は上機嫌でしたよ。
久しぶりに面白い、と。こうも言ってた、幹部候補生か…それとも俺にとどめを刺すのか、彼らとの勝負だ…って」
「なるほど、組織の誰もが知らない岩船さんを知っている。そう言う事か」俺は藤村を見た。
藤村もママのものごしと、会話から逆に岩船の真の性格を測っているのだろう。

「あ、そうそう。カーク高階。彼は岩船がいのちを助けて函館に連れて来たの。
彼にとって岩船は何よりも、誰よりも大事な存在なのよ
だから、岩船のさわりになりそうなものは、事前に処理するの。
岩船がどう思っているか…と言うよりも彼がそう感じればね。
彼が本気になると怖いのよ。それなりに子飼の子分たちも持ってるし…」
なるほど、岩船の人間に接して感じた違和感はある程度当たっていたらしい。
だからと言って何かが変わるものでもない。

「そう。今度船が来るそうね。その時、お客様を案内して城戸と言う男が帰って来るわ。
ジョーとはそりが合わないタイプの男よ。彼は別な意味で怖いわよ。」
俺はひっかかりを感じた。
城戸…か。ジョーとは合わない…つまりは相当な悪党ってわけだ。

「挨拶は済んだな。レコードも時には聴くが、だからって歌いたいわけじゃない。久我、行こうか」
藤村も何かを確信したらしい。
だが、こいつもそれで行動が変わる訳じゃない。

俺は繭子の残したものでもうひとつ知りたい事があった。
カメラバッグの女が知っているのか、それとも浅部がまだ隠しているのか。
その誰もが知らない事がまだあるのか。
船が来るまで時間はそれほどない。

ジョーが誘うので射撃場に来た。
藤村も一緒だ。
ここでは20m先の的を撃つ。最初の8発で微妙な銃のクセは飲み込んだ。
的は60cmの正方形、ほぼ中心近くに撃ち込むまで、それほど時間はかからなかった。
藤村は短銃身の拳銃のわりに的から外す事はない。

ジョーはさすがにスピーディーな拳銃さばきでマガジンひとつ撃つのに驚くほどの早さだ。
ホルスターから抜き、スムーズな動作で身体と腕、銃口が一体となって目標に向く。
マガジンを撃ち終わった瞬間ラッチを押してマガジンを棄てる、
左手で次のマガジンを叩き込む…ながれるような動きだ、それを最小限の動作で行い身体がぶれない。
ひとくぎりつけた時、ジョーが俺を見た。ニヤッと笑っている。
俺は近づき、ジョーにだけ聴こえる声で「ジョー…暗黒街で自己流に覚えた動きじゃないな。
お前の拳銃捌きは正式な訓練を受けた者の扱い方だな。どこで覚えたもんだか…」
「へへン…達人が到達するレベルってな、そんなに変わりはないって事さ」
これは藤村も同じだ、隠れて密かに自己流で身に付けたものではない。
「まったく…、お前らは妙だよ。俺だけがジャングルの自己流ってわけか」
「インャ…久我、お前も大したもんだ。リヴォルバーであれだけ早く全弾を撃つってのはな。
しかも弾の詰め替えが恐ろしく早いな」
「ペルーの連中は弾だけはとんでもない量をバラまいて来たからな。早くしないとヤバかっただけだ」

俺たちが引き上げる時、カーク高階が現れた。H&Kのグロッグを使っている。
俺たちの背中に語りかけて来た。
「船と一緒に城戸が戻って来る。お前たちとは合わないタイプだ。気をつけろよ。
あいつは気に障っただけで殺そうとするぜ」
「ほー、そんなに短気なのか…」
高階は的に向かいながら背中越しに笑いを含んだ声で言った。
「いや。単なるサディストだ」
「おやおや、相当に嬉しいヤツらしいな」
ジョーがぶすっとした表情だ。よほど城戸が嫌いらしい。

戸外に出ると、なんとなく凾館酒場に向かった。もう黄昏が近い時間だ。
カウンターには例によって深江がグラスを磨いていた。

「いらっしゃいませ」

驚いた事に隅っこに客がひとり。珈琲をのんでいる。小柄なカワウソみたいな男だ。
ジョーが声をかけた。
「テディ、ここにはあんたが好きな幻想のかけらもないぜ。港の路地でも散歩してなよ」
テディと呼ばれた男は席を立ちながら眼だけで笑った。カウンターで深江に珈琲代を払う。
「ジョーさん、硝煙の匂いをさせたまま舗道を歩くのはまずいんじゃない…強い酒を飲んだ方がいい」
そういいながら外へと出て言った。

藤村がいぶかしそうな視線で見送りながらジョーに聞いた。
「見た顔だな。いつもヒマそうに散歩してるやつだ」
「あー。凾館街角商會ってとこの所長だ。まー、傍観者、観察者ってとこか。気にする事はない。人畜無害だ。
雇ってるカメラマン、いやカメラウーマンかそいつが有能だから、事務所がなんとかもってる。
港に飛んでる極楽トンボだな」

カメラバッグの女が意外に近くにいた。
船が着くまで、もう半月しかない。

俺たちの船は函館港を午前1時に出た。
相手の船とは海峡のほぼ真ん中で出会う予定だ。

相手の船籍は中国、機関に不具合を起こして、緊急の整備会社とスタッフが沖合で合流し、
修理を行うと言う筋書きが海保にも届けが廻されている。
闇の中に船影が見えた。信号燈の合図が交わされ、船は間近に接近した。
海峡の潮流との具合を調整するためエンジンは動き続けている。

小型ランチが降ろされ、岩船とカーク高階、コルトのジョーそして俺たちが相手の船に移った。
甲板には10人ほどの男たちが待っていた 
中からやけに頬のそげた感じの男ともう二人が近づいて来た。
「ボス、予定通り、お客さんと帰ってきましたよ」
その頬のそげた男が鋭い目つきのまま岩船にそう言った。
岩船は目元に笑みを浮かべている。
「城戸、苦労させたな。お前たちも良くやってくれた」城戸の後ろのふたりもほっとしたような表情だ。

城戸が俺たちを見た。
見知らぬ顔ぶれに警戒している。カーク高階が少し前に出た。
「新顔は久我と、藤村だ。ロシアへも行く。ボスが決めたスタッフだ。腕は…相当なものだと言っておこう」
「城戸、上手くやってくれ。フョードロフとの合意が成立するまでは、誰が欠けても俺が困る」
岩船が静かにそう言った。

城戸はジョーをちらりと見た。
「ジョー、俺はもうひとつお前ぇを信用していない。ボスと組織に妙な真似をしたら切り刻んでしまうぜ」
「へへッ…俺はボスには忠実な、優秀な部下さ。俺が気に入らないなら、いつでも勝負してやるぜ」
城戸は無表情だ。ジョーを少し見つめると、俺たちに視線を映した。

「城戸だ。ボスが決めたならそれで良い。ボス、洪連金さんと宗文明さんです」城戸が下がる。
がっしりした体型、たいした貫禄だ。
こいつが洪連金。もうひとりは中背の縁なし眼鏡、小太りの男が宗文明。
洪と宗はいやに陽性の笑顔で岩船と抱き合った、中国式の挨拶なのだろう。
洪は俺たちへも笑顔を向けた。渋い好みのダブルのスーツだ。
「流石に岩船さん、頼もしそうなスタッフですね」驚くほど慣れた日本語だ。
宗は気取った感じで俺たちを眺めまわした。こっちは派手な雰囲気だ。
「そう、頼もしい。それだけ油断もならない方々。フフッフフ。ヨロシク、オネガイシマス…」
こいつはまるで戯画化された中国人そのままのアクセントで喋るのだ。
スゥェードの革手袋を嵌めたままというのも変わっている。
見た目は宗の方がおとなしいくらいだが、目元の冷たさは冷酷な本性を表している。

ひとしきり船室で書類の確認や積み荷の確認が行われた。
帰りは洪たちの一行も俺たちの船に乗り港へと引き返した。
俺たちが話している間に必要な荷物の積み替えも終わっていた。
これだけの作業の間に船は海峡を移動している。帰りの方が時間がかかった。
俺と藤村はことさら静かに従順なスタッフとしてのふるまいに終止した。すべては街に帰ってからだ。
岩船はもちろん見ぬいたいたようだが、相手の船では常に三方向からライフルが狙いを付けていた。
だから、ジョーと俺たちは常にその方向に身体を向けていた。
さりげない、何事もないような、そんな俺たちの動きを城戸も判ったようだ。
帰りの船はそれぞれの思惑を潜めたまま、静かな航海だった。
薄明の中に薄れた街の灯りが幻のように浮かんでいた。


入船の浜

久し振りになってしまいました
出張してたので久し振りの函館デス

凾館街角商會の事務所に顔を出すと
所長が「桜子ちゃ~ん、お疲れ様、珈琲飲むかい?」と戸棚を開けた
「豆、買ってなかったけど、まだ大丈夫でしたか?」
「買っておいた」と所長が言う

少しカビくさいそして煙草の煙のこもった事務所に
珈琲が抽出される良い香りがしてきた

「この豆もいいですよ~ 桜子ちゃ~ん
ん、焙煎がいいね、好みだね、珈琲屋ではなくBARで飲ませる珈琲なんだけど」
「所長、それってもしや凾館酒場の?」
「おっ、桜子ちゃんも知ってるのかい 凾館酒場を」
「何回か行きましたよ 最近、行くようになったんです
艀のママもこれからは深江さんとこにしなさいってTELまでしてくれたんですよ」

やはり、所長のテリトリーには凾館酒場も入っているのだなと思った

私は凾館酒場のある曙町のことをボンヤリ思っていた
かつての職人町・・・石鹸工場・・・
今回の出張とは関係ないが、近くだったので(そこも少し曙町と似た空気感の街だった)
セルロイド人形を作る工程を見てきた
50年前の金型から改良して新しくて懐かしい人形が誕生する
言いかえれば古くて新しい・・・

「所長、ずいぶん参考になることがたくさんありました
後で、報告書を提出します」

今日で9月も終わり
繭子が死んで、来月にはもう半年だ
先日、驚いたことに繭子の恋人だった、という人と会った
凾館酒場へ行くといつもは誰もいないのにめずらしくお客さんがいる、と思ったら
コルトのジョーであった この男は私のテリトリーに必ず出没してくるいけすかないヤツである

ジョーが隣の男に言った
「久我、お前の会いたがっていた凾館街角商會のカメラウーマンだぜ」
久我と呼ばれた男がすかさず鋭い視線を向けてきた
「いつぞやは、おせっかいな忠告をありがとうよ」

何だ?と思った コルトのジョーといるヤツはいかれたヤツばかりだわ
無視することにした

「おい、久我、お前何か勘違いしてねーか
このお姉さんは、全然関係ないゼ、善良な小市民なんだからよ」

私はマスターにホットウイスキーに角砂糖を入れてもらう

「錨とパイプ亭で、俺にいらぬおせっかいな言葉を囁いて海霧深い戸外に消えた女じゃねーのか
カメラバッグを下げてハンチングかぶっていた女だぜ」
我慢ならなくて、私はその久我という男に言った
「違うわよ、よくまちがわれるのよ、先日もまちがわれて訳のわからないことを
言われたんだからイヤになっちゃう」
「あ、あ~悪かった あやまるよ」久我はそう言って小さくなったけれど

コルトのジョーがまた何を言ったのか
「桜子さん、繭子の・・・繭子の友人なんだ」そう言って
懐かし気に私を見る
そうするとその男も「善良な小市民」に見えるから不思議である
久我の隣のほそ面の男が「久我は繭子さんの恋人だった男だ」と言った

驚いた 繭子に恋人がいた・・・


岩船のキャバレーを閉めて、中国マフィアの歓迎パーティーとなった。
洪連金も宗文明も手下を周囲にはべらせている。
岩船と城戸が相手をしていた。

俺たちはバーカウンターで寡黙に様子を見ていた。
周囲の子分たちのひとり、城戸の配下のひとりが、横の男に何気なく喋った。
「城戸さんてのは怖い人さ。ボスと中国側の使いが明け方に埠頭で会ったんだ。
ブツの見本もあったな。そこを風景写真と一緒に撮影した女がいた。
城戸さんはその女を素早く捕まえるとためらいもせず海に浸けたぜ。
女は声をたてる間もなく即死さ。死ぬのを確かめたらズボッと海に落としてなー、顔色ひとつ変えねぇ」

俺は自分のやるべき事が判った。
藤村はスッと眼を細めてスツールから降りた。

「久我、後にしろ…と言っても聞かないだろうな」俺は黙ってうなづいた。
いつの間にかジョーが姿を消していた。

俺は岩船たちの席に向かった。
「城戸、お前が向こうへ行く前にかたづけた埠頭の女は俺の恋人だった…」
城戸は冷たい目つきで立ち上がった。
「だからどうだってんだ。今、やろってのか」岩船が俺を見た。
「久我、よすんだ。死んだ者は帰らない。お前は組織でのしていける、忘れて俺の下にいろ」
城戸が薄く笑った。
「ボス、こう言うタイプは止まるもんじゃねえ。パーティーの余興だ。一騎打ちと行こうか」
フロアの中央。城戸と向かい合った

案山子

好きな季節がやってきた
今頃、本州の家では金木犀が香っているかな
休日に少し車を走らせる 気持ちの良い青空が広がる

ポットに珈琲を入れてきたので
田舎道に車を寄せて飲む 
持参のサンドイッチも食べる

今日未明、曙町で大爆発があったらしい
カーラジオがそう告げていた
あの石鹸工場跡の倉庫あたりのようだ 
くわしいことはわからないがBAR凾館酒場は無事だったのだろうか
あの無口なマスター深江氏は大丈夫だったろうか

繭子の恋人だった久我さんに「カメラバックを持ったハンチングの女」とまちがわれたあの時
「マスターよ、その本物のハンチング女、最近ここに来ただろう?」コルトのジョーが聞いた
「さぁ、ハンチングの似合う方はそうめったにおりませんね 桜子さんはよくお似合いです」
そうはぐらかされていた
ジョーはシラケた顔をしていたが、あの男はどうしてああもガサツなのだろう
それでも「艀」でも「凾館酒場」でもあの「錨とパイプ亭」でもカウンターに座れば妙に様になって
毒舌を吐きながらも好かれているのだ

珈琲を飲みながら、何だかイヤな予感がしてくる
帰ろう ドライブは終わり
私は、ポットをしまい座席を正しエンジンをかけた

夜景色

浅部刑事のスカイラインで函館山の展望台へ行った
刑事は函館を離れるらしい
警察も辞めるそうだ

「桜子ちゃん、繭子さんが亡くなってちょうど半年だね
事故死ってことだけど、俺は違うと思っているが確定的なことはわからなかった 
先日の曙町の爆発も同じさ この函館の街は不思議だな・・・」

浅部刑事は夕闇せまる函館の街並をじっと眺めていた

「曙町の凾館酒場から火が出て、近くの石鹸工場跡にあったガス管が破裂
それにより凾館酒場のマスター深江彰さん(61)とお客の城戸幸平さん(53)
坂木錠さん(38)藤村泰三さん(37)が死亡、久我草介さん(38)が意識不明の重体」と報道された
こんなに人が亡くなっているのに報道は小さな扱いだった

「桜子ちゃん、繭子さんのお母さんが歌声喫茶「雅」の香月美奈子だって驚いただろう
お父さんと呼んでいた人は本当は祖父だったんだな
香月美奈子が学生時代に東京で繭子さんを産んだ
本当のお父さんは、学生運動の闘士だった 桜子ちゃん、君のところの所長と
そのお父さんは親友だったそうだ だから所長はよく香月美奈子のところへ行っていただろう」

そうなんだって、先日、所長に聞いて私も驚いた
所長、歌いに行っていたわけではなかったんだな~
コルトのジョーもヘンに勘ぐっていたけど・・・
そのジョーも亡くなってしまった

「浅部さん、偶然ってことがなく全て必然みたいですね 物騒で恐いです」
そして季節が秋だから、というわけではなく親しい者たちが消えていきとても淋しい

「繭子さんの部屋に残されていたあの写真 そう、桜子ちゃんが撮ったロシア人の船乗り
繭子さんの恋人の久我草介と一緒の船に乗っていた仲間だったよ
錨とパイプ亭に来ていただろう 久我が日本に行ったら訪ねてごらんよ
俺の恋人が唄っているかもしれない、と話したそうだよ
繭子さんのよく唄っていた「Lover Come Back To Me 」久我も船でいつも口ずさんでいたそうだ」

恋人よ、我に帰れ! か・・・
私は繭子がとても愛しくてたまらなくなった

元町カトリック教会

「桜子ちゃんとよく似た人がいるんだ
ハンチングを被ってカメラバックを持った女だが、最初は桜子ちゃんだと思った
ホント、よく似ているんだよ 海霧の強い夜に現れるんだ 跡を追っても
霧の中に吸い込まれて正体がわからずじまい」

「・・・・・」

「繭子の恋人だった久我さんも、何か勘違いしていたみたいだけどね」

浅部刑事に・・・全て話す必要はないでしょう
それとも、私を試しているのだろうか その目は遠くを見ていてよくつかめないけれど・・・

元町カトリック教会と海と遠くの街並・・・好きな遠景です
石畳の道を挟んで向のハリストス正教会の鐘の音が響く 少し独特の鐘の音
5時ですね

「浅部さん、珈琲が飲みたいですね けれど、艀も凾館酒場も、もうないよ」
「珈琲屋になろうかな、俺、あ・・・」

大三坂・香月家の洋館

見ると、大三坂の下から女が上がって来る
ゴージャスな雰囲気を醸し出しているその人は歌声喫茶「雅」の女主人
そう、繭子の母親である香月美奈子だ

大三坂は日本の道100選に選ばれている趣のある坂
電車道路からこの坂を見上げるのが好きだ

ななかまどの実もだいぶ赤くなったこの坂の石畳を、香月美奈子が上がって来る
ゆっくりゆっくりとゴージャスな雰囲気をあたりに振りまいて上がってくる
そして途中の洋館へと入っていった
ピンクの洋館である 表札は「香月」

ここは、カメラマンの友人 桜井氏がすぐ近くで「写真屋 Y の店」をやっているので
よく来る場所だ 
この洋館の前もよく歩く、そうすると表札も目につく、そういえば「香月」だった・・・
このピンクの洋館が繭子の母親・香月美奈子の自宅 

「浅部さん、知ってた? ここが香月美奈子の家だってこと」
「知ってたよ 繭子さんもここにいた時期があるんだよ」

「へぇ、そうなんだ・・・」
今にも繭子の歌声とファンキーなピアノの音が聞こえてきそうな気がする
浅部さんも感慨深げに窓を見上げている
「函館の街は不思議だな」また、言っている

洋館

浅部刑事が大三坂の香月美奈子の住むピンクの洋館を眺めながら
「色々あったことも、時の流れの中で遠く色あせていくんだろうな
繰り返し訪れた挫折の痛みは、今はまだ俺の中では鮮やかなんだけどね」と言った時
私は何だかそう思ってしまったんです 「来年の今頃はどうしているかな」 と

そう、あれからちょうど1年

空港を降りてバスに乗り、行く手に懐かしい函館山を前にして海岸道路に出ると
カモメが舞い、少しばかり潮の香りもする しばらく走りバスは右手に曲がる
駅前に近くなると、古い路面電車が向こうからのんびりやって来るのと遭遇する 
函館の街は一見して変わっていない

運の強い人がいるとしたら、それは久我草介だろう
意識不明の重体で運び込まれた久我さんは、1ケ月後に意識が回復し
リハビリに励んだかいあり、奇跡的に90%の回復をみせたらしい
そして横浜の航海訓練所の練習船の一等航海士として函館を離れたそうだ

久我の90%は普通の人間の100%以上だろうと、浅部刑事・・・今は刑事ではなくなった浅部さんが笑う
療養中は、香月美奈子が献身的に世話をしたそうだ
娘の恋人だった久我さん そのことを香月美奈子はいつ知ったのだろうか
娘である繭子が死に、その恋人も危うく殺されかけたその裏幕は自分の恋人岩船なのではないのか
色々な疑問が1年を過ぎた今も頭をよぎる

「凾館酒場」のマスター深江彰氏が銀座のBARにいた頃、浅部さんは東京で学生だったが
そこではバーテン深江氏が皆の憧れだったのだそうだ
浅部さんも何度かその高級なBARへ行ったらしい
「男のダンディズムを学びに」などというセリフは全く似合わないがサラリと言ってのける
刑事だった頃の浅部さんと、少し雰囲気が変わった気がする

職場のある遠い函館そこでゴーストタウン化した寂れた街区で
ひっそりと年齢を経て、ヤクザな客たちを相手にシェーカーを振っている深江氏と
再会した時は驚いただろう

深江氏は岩船によって一時、生きていたようなものだった

過去に失ったものたちがたくさんある
それは、誰もが同じこと
そのことは忘れようとしても忘れられない
しかし、痛みを抱えながら生きていくことで「色あせていく」
時間が過ぎて・・・

それから、私たちは凾館街角商會に行く
所長のテディのブログはまた更新が滞っている
励ましに行こう


君がいた街 ~Hakodate~

      最後までお読みいただきありがとう

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  1. 2011/11/14(月) 09:49:16|
  2. 函館物語
  3. | コメント:0

幻の凾館街角商會

MAP

これは凾館街角商會の入っているビルヂングにも貼っているんですが
凾館街角商會自体がわかりずらいらしい

ところが、先日、面接したいとフリーの人が
ボロいドアをノックしてきた

函館だけでもかなり暇(?)だというのに
東京出張所を開設することになったのですよ
(桜子がそこの所長になります)

それで、函館にもうひとりくらいは所長の補佐が欲しいし
人材発掘のため知人にも声をかけたりしていた

さて、面接の場合ですが
今までの作品(もどきでも)を持ってきてくれたら
話しは早いと思いますよ~

所長、ラジオのパーソナリティなんぞもやっているけど
本業はデザイナーでキャリア長いのよん
で、その作品群を桜子はいいなぁと思ったからね~

夢みるように歩く街・Hakodate で
夢のような時間を過ごす企画・・・
あるんだなぁ・・・ハハハ!

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  1. 2011/11/12(土) 10:24:13|
  2. 写真展・凾館街角商會
  3. | コメント:1

二人で歩こう

恋人時代

観光に来たなら必ず通る場所だと思うが
ここを二人で歩いた時 他に誰もいなければ
恋が叶うのデス

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  1. 2011/11/11(金) 15:37:19|
  2. 風景 Photo
  3. | コメント:0

駅前

函館駅前

何てことない場所なんだけど
懐かしさであふれる思い

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  1. 2011/11/10(木) 15:01:56|
  2. 風景 Photo
  3. | コメント:0

初雪降ったら

初雪降ったら・・・

こんな光景は北海道ならでは!
(まだ、初雪降っていないんだけどね)

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  1. 2011/11/09(水) 16:57:35|
  2. 風景 Photo
  3. | コメント:2

立ち話

立ち話

小春日和に 他愛ない世間話 また楽し

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  1. 2011/11/09(水) 09:05:04|
  2. 風景 Photo
  3. | コメント:2
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プロフィール

桜子

Author:桜子
故郷 Hakodate 及び近郊で
過去に撮った Photo を
アップしました

You tube にもアップしているので
桜子ワ~ルドをお楽しみ下さいネ

アレコレ、ウソやホントを綴っています

どうぞよろしく!

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